上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top
凍えそうな晩冬の夕暮れ。それでも家の中は暖かい。
幼子に合わせた早い夕飯のしたくをしていると
ふいに電話がなった。
3年ぶりに懐かしい声を聴く。バイトしていた、店長の奥さんからだった。

私が妊娠前アルバイトをしていたのは奥さんはもう70を過ぎたという、
老齢の夫婦が経営している細い国道沿いのコンビニ。
奥さんははきはきとしてしっかりと店をきりもりしていて、
影から温かみのある穏やかな店長さんが支えている。
仲の良い鳥のつがいのような夫婦だ。
バイト仲間は若い高校生の女の子だったり、若い主婦だったり、
パソコンに詳しくて色々教えてくれたりする男子高校生だったり。
若い覇気が溢れながらも穏やかで、なかなかいごごちの良い店だった。

旦那さんである店長は70を過ぎていたのだろうか?
けれどとうていそんな年には見えない背が高くてしっかりとした知的な方で
仕事はけして出来るという訳ではないけれど
若い店員の中にあって,真面目さと人当たりの良さだけがとりえの
晩秋の枯れた柿の木のような店員に何かほっとするものがあったのだろう
バイトがおわると毎回のようにシフト仲間の若い男の子の店員と私に
店のコーヒーをごちそうしてくれた。
そうして3人で仕事が終わった深夜に社会の事、歴史の事、様々なことを話した。
それはなかなかに楽しい時間で、高校生の男の子などはいつまでも帰ることはなく
男同士二人で話し合いたい事も沢山あるだろうと必ず私が先に仕事場を後にしていた。

そうして何ヶ月かたったある日、皆でコーヒーを飲みながら私が本が好きで
写真を撮ったりしながらブログに文章をたまに書いていることを店長さんに話すと、
今はもうずっとプロとして執筆活動はしていないのだけど
若い昔は何冊か本を出したり雑誌に書いていたプロの作家だった事を話してくれた。
私は活字中毒の文学少女だったので、どんな作品を書かれていたのか
どうしたらよい文章が書けるのかなどわくわくしながら矢継ぎ早に質問すると、
店長さんは次の日、昔御自分が執筆した文章の載っている
古い雑誌を持ってきて貸してくれた。
各地の歴史を訪ねて特集記事がかいてあったり、様々な史跡の写真が載っている
もう40年以上も昔の、古い歴史雑誌だった。

代々受け継がれている伝統民芸を取材して記事を書かれていて
伝統民芸をレポートしながら、父と子の家族愛をテーマにしいて、
さすが伝えたい事がはっきりと伝わってくる、文章からその場の風景が見えるような
とても良い記事だった。


しかしその後、私は予期せぬ妊娠とつわりによる酷いめまいと吐き気で
とうとう起き上がるどころか日常生活もままならなくなってしまったので
バイトをやめざる負えなくなった。

その後体調の回復にも時間がかって、忙しくて店にも顔を出せずじまいだったのだが
奥さんは家も近所だった事もあって、私の体を気遣って電話を数年ぶりにくれたのだった。

色々近況を話している中で、
旦那さんである店長さんが少し前に亡くなった事を知った。
店長さんはとても元気で、若い人に混じって仕事をしてらしたので、
私はびっくりして、奥さんの気持ちを考えるととても悲しくなってしまって
涙が出て困った。

話が終わり電話を切って、そばによりそって不思議そうに私を見上げる2歳になる
息子の頭をなでると、もう忙しい日常は始まっていて。
又育児に家事に追われる日々が始まると、遠い人の死の知らせは
少しの胸の痛みとして日常生活に沈んで行ってしまう。

けれど数日たったある日の事、ふいに生前店長さんが言っていた言葉を。
数年たってあらためて思い出した。

「最後の読者が君のような人で良かったよ」
彼は私に大事にしていただろう彼の著作物を貸してくれた時、静かにそう言っていた。
そういえば、確かにそう言ってくれたのだった。


私は又、涙が出て困って。
その日一日は何かにつけてじわりと涙が出てきそうになって又困った。

私は本当にいつも何もかもうまく出来ない人間で
力も弱くて、夫がいなければこの先こどもを守るだけの実力もないような人で
自分の考え方や自分自身に自信も持てた覚えも無い、卑しい弱い人間なのに、
なのにあんなに良い文章を書く人がそんな言葉を言ってくれて
それはどんなに励みになるだろう。

本当に最後の読者であったであろう私に、彼が言ってくれたその言葉が。

私はこれからもずっと彼の言葉を大切にして
励みにして過ごして行くことだろうと思う。

言葉ってほんとにすごいものなんだ。
今まで言葉は言葉でしかないと思っていたんだけど・・
でもこんな力があるんだ。

いつかうんと年老いた時、
息子にでも、その子供達にでも、
それから誰かの胸にでも
私はこんな言葉を残せるんだろうか。
いったい彼のように、ずっと誰かの励みになるような言葉が
言えるようになれるのだろうか。




「最後の読者が君のような人で、良かったよ」




私もあなたの読者になれて、良かったです。




スポンサーサイト
2010.02.10 Wed l 日記をかねた身辺雑記 l コメント (0) l top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。